自分の演奏の音を聴く
ピアノに限らず楽器を弾く上では自分の音を聴くということはとても大切な技術です。
自分で弾きながらいつもの練習している場所で聴こえる楽器の音を聴くだけでなく,ホールで反響する音を聴くなど「音を聴く」技術は自分の演奏のクオリティを上げるために重要な要素となります。
自分の演奏しているときの音がどのくらい聴こえているのか,どのくらい聴こえていれば良いのかという感覚はとても抽象的なものであるため,明確な判断基準はありません。
今回はそんな「音を聴く」ということについて記事にしてみます。
自分の音には自然に反応している!?
楽器を弾く上で習っている先生から「もっと音をよく聴いて」と一度は言われたことがあるのではないでしょうか。
自分ではかなり聴いて注意深く演奏しているつもりなのに先生からは注意される経験は楽器を習う多くの人にあると思います。
しかし,私は楽器を弾く人のほとんどは自分の音にもしっかり反応して演奏していると思っています。
「現に注意されるわけだからそんなことはない!」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが,少なくとも自分が弾いているピアノから出てくるタイミングが鍵盤を押したタイミングで出てこなかったり,ピアノの鍵盤が勝手に移調されていたりしたら,違和感があって弾けなくなる人も多いでしょうし,少なくとも耳栓をしてピアノを弾いてみると自分の動作の感覚だけでは思ったような演奏をすることはできません。
例えば,ホールで弾くなど,いつもと違うピアノで弾く場合,いつもと同じように弾いているつもりでも出てくる音と感覚が違うことがあり,自分の音がよく聴こえなくて怖くなったり,よりよく聴こえて安心したり自然と音に反応して演奏しようとした経験がある人もいるのではないでしょうか。
電子ピアノの移調機能がある人はピアノの音を半音や一音ずらして弾いてみてほしいです。
慣れている曲でも違和感があって弾けなくなる人もいらっしゃるはずです。
これは自分の音に反応しているからだと思います。
移調する機能を持つ電子ピアノがない人は耳栓やイヤホンでもいいので音が聴こえにくくなる状態を作って携帯で自分の演奏を録音してみると自分の指先の感覚だけではデコボコした演奏になってしまうことが分かるかもしれません。
こういったことから,ピアノを弾く多くの人は自分の動作と音を常にフィードバックしながら演奏しており,ピアノの初心者であろうが上級者であろうが自分の音は聴こえていると考えられます。
ピアノを始めたばかりの初心者も弾けていることが楽しいと感じるときは自分の演奏している音に自然に反応しているため自分の演奏は聴こえています。
結局,もっと音をよく聴くということは「聴いてくれている人にどう聴こえているか」と客観性が判断基準となると考えられます。
自分の音を客観的に聴くことの難しさ
「自分の演奏を客観的に聴く」というのは言葉で言われるととても簡単なことなのですが,実際にやってみるととても難しいです。
多くの人はここでとても苦労していると思います。
つまり,本当の意味で客観的に音を聴く技術というのは
- 演奏する音を聴きながら自分の動作を修正し,修正した音を聴いてまた動作を修正する
- 目の前で鳴っている音から聴いてくれている人の耳にはどう届いているかを判断する
といった超高度な技術が必要となります。
こうした難しさを見ると一部の人にしかできない超特殊能力のように感じるかもしれませんが,人間は一定の訓練をすればこれらの技術をあるレベルまでは身につけることはできます。
演奏しているときの客観性を身につけるためにはどうすれば良いかというと
- 他人の演奏をたくさん聴くこと
- 自分の演奏を録音すること
という練習を積めば良いと考えられます。
こうした練習を全くせず,自分で演奏している感覚と聴衆に聴こえている感覚が一対一に対応できるようになった人は超一流だったり天才だったりすると思いますが,実際にはそういう人はほとんどおらず,相応の努力をして「自分の演奏を客観的に聴く技術」を身に着けていると思います。
昔はこうした技術を会得できる機会は音楽の環境に恵まれ,良い指導者や演奏家に囲まれた一部の人にしか与えられませんでしたが,現代のテクノロジーを駆使すれば,昔は一部の人しかできなかったことができるようになっています。例えば,
- たくさんの良い演奏を聴いて耳を作る
- 良い先生に指導を受けて自分の演奏を修正する
ということはかなり実現しやすい環境になりました。
どういうことかと言うと,携帯電話で簡単にかつ音質の良い演奏動画の撮影ができるだけでなく,YouTubeだけでなく,CDやBlu-ray,各種音楽サービス(Amazon Music Unlimited)などで歴史的な大演奏家の名演奏を簡単に聴くことができるようにもなったため,自分から経験を積めるきっかけはたくさん得られるようになりました。
(Amazon Music Unlimitedはクラシックの名演奏だけでなく様々な音楽も聴き放題です)
最終的に自分の演奏の良さ悪さを感じてくれるのは聴いてくれる人ですが,自分の演奏を録音して客観的に聴いたときに,超一流の演奏家の演奏と自分の演奏の何が違うのか自分で判断し,突き詰めていくことができれば自分の演奏をどんどん成長させることができると思います。
まとめ
今回は「音を聴く」ということをテーマに記事にしてみました。
自分の演奏している音を聴くということはいい演奏家になるための条件の一つですが,昔と比べて自分の演奏を簡単に録音できるようになりました。
演奏のレベルアップのために自分の演奏の苦手と思うところを録音してよく聴いて,自分で何が悪いかチェックできるようになった上で,先生に教えてもらうと今以上にレベルアップが望めるかもしれません。
良い演奏の判断基準としての聴く耳を育て,良い演奏を実現するための技術を磨くという両輪を使って良い演奏を目指していければと考えています。
私が個人的におすすめするバックハウスのベートーヴェンとシフのバッハのリンクを貼っておきますので,まだこれらの演奏を聴いたことがないはぜひ聴いてみていただければと思います。
この記事が皆さんの役に立てば嬉しいです。