ピアノを弾く上でバッハは多くの人が取り組むものと思います。しかし,このバッハがあまり得意ではないという人も多いのではないでしょうか。今回はピアノを弾く人が必ずと言っていいほど取り組むバッハの「インヴェンションの効果と使い方」について記事にしてみます。
まずバッハが苦手な原因を考える
バッハがあまり好きではないという人も多いと思います。私も小さい頃「バッハは絶対に弾きたくない」と思うくらい苦手にしていました。まずは多くの初心者がバッハを苦手と感じる理由を大きく2つ考えてみます。
右手と左手を対等に動かすところ
多くのピアノ曲では「右手はメロディ」「左手は伴奏」というイメージがありますが,インベンションに限らずバッハの曲のほとんどでは「右手と左手を対等に動かす」「どちらの手にもメロディがある」という特徴があります。また,右手だけでなく左手のトリルなどの装飾音を引く必要があり,右手と同じクオリティで左手が弾けないと感じてしまう人もいるかもしれません。
したがって,ト音記号は読めるけどヘ音記号はスラスラ読めないという人や右手は自由に動くけど左手は自由に動かせないという人にはバッハはかなりとっつきにくいと感じると思います。こうしたテクニック的な問題意外にもバッハが苦手と感じるのは次の理由もあります。
音楽の切れ目が分からない
特に初心者のうちはバッハの音楽が「どこで音楽が切れるか」が理解できず,お経のように延々と単調な音楽が続くと感じてしまう人もいます。良い先生についていたり,音楽的なセンスが身についている人は自然とフレーズや音楽の切れ目を理解しながら弾くことができると思います。しかし,最初からこうしたことができる人はごく一握りで,私もこれが原因で苦手意識がありました。今では曲がどうできているか理解することができたので小さい頃に比べてずっと楽しくバッハを弾くことができています。
バッハに限らず色々な曲を弾いて経験が多くなると曲のフレーズの長さや音楽の切れ目が分かってきますが,最初から「みんなが通るインベンション」と言ってインベンションに無理に挑戦しようとすると人によってはピアノが嫌いになってしまう可能性もあるので注意が必要だと思います。
インヴェンションの効果【上達しやすい曲集である理由】
初心者がいきなりインヴェンションを弾くのは大変かもしれませんが,インヴェンションにはピアノが上手くなる要素がたくさん含まれています。ピアノを初めてまだ月日が経っていない人にとってはまだ少し先の世界かもしれませんが,インヴェンションを弾けるようになるとどのような効果があるか紹介します。中級者以上の人は弾いたことがあるという人がほとんどだと思いますが,昔弾いてからずっと弾いていないという人もぜひ再度弾いてみていただけると良いと思います。
インヴェンションの楽譜は色々な出版社から出ていますが,私は楽譜の読みやすさや運指がわかりやすいのでこちらのヘンレ版が一番好きです。(多くの楽譜が「インヴェンションとシンフォニア」として収録されています)
その1:色々な調性の曲が含まれている
インヴェンションの曲には様々な調が使われています。曲の調は以下の通りです。
- ハ長調(C-dur):BWV772
- ハ短調(C-moll):BWV773
- ニ長調(D-dur):BWV774
- ニ短調(D-moll):BWV775
- 変ホ長調(Es-dur):BWV776
- ホ長調(E-dur):BWV777
- ホ短調(E-moll):BWV778
- ヘ長調(F-dur):BWV779
- ヘ短調(F-moll):BWV780
- ト長調(G-dur):BWV781
- ト短調(G-moll):BWV782
- イ長調(A-dur):BWV783
- イ短調(A-moll):BWV784
- 変ロ長調(B-dur):BWV785
- ロ短調(H-moll):BWV786
このように全ての曲の調性が違うので,ピアノを弾く上では重要な鍵盤に対する感覚を掴めるようになります。さらに,シャープやフラットが多すぎない比較的よく出てくる調が使われているので,レベルアップにつながりやすいと思います。
その2:右手と左手の対等さや動きを自然と意識できる
右手だけでなく左手でもメロディが出てくるので,右手と同じフレーズが出てきた時に右手と同じクオリティで左手のメロディを弾くことを自然と意識することができます。さらにちゃんと練習していくと,同じ音形で違う音が使われている場合にも気づくことができ,こうした音形についても同じように弾けているか意識できるようになります。
左手でのメロディの弾き方だけでなく右手が伴奏となった時の弾き方など,自分の右手と左手で差がよく分かってしまうので,こうした差を意識して全ての曲がスラスラと弾けるようになる頃にはピアノを弾く基礎的かつ様々な技術が身についていることと思います。
その3:五線譜からはみ出した音が少ない(楽譜を見ながら弾く練習ができる)
インヴェンションの楽譜を見てみると,多くの曲で五線譜の範囲を少し超えたくらいの範囲となります。そのため,「五線譜内の音符を読む」という基本的な譜読みの技術を身につけることができます。(楽譜の読み方についてこちらの記事も参考にしてもらえればと思います)
それだけでなく,音のパターンもよく見てみると,オクターブや六度の跳躍はありますが,それ以上の跳躍が頻繁に出てくるわけではなく,それほど複雑ではありません。
したがって,「楽譜を見ながら弾く」という初見演奏の訓練ができます。「一度弾けるようになってしまった曲ではあまり効果がないのでは?」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが,実際に楽譜を見ながら手を見ずに練習してみると弾いているうちに目線が楽譜から外れてしまい,案外できていないということに気づくかもしれません。
初見演奏がまだ得意ではないという人は,インヴェンションを弾けるようになって「楽譜を見ながら弾く練習」をしてみると一気にレベルアップにつながります。さらに,楽譜が見開き1ページで譜めくりがいらないというのも練習の効率が高くなるポイントです。
インヴェンションが難しいという人へ【ピアノの初心者に向けて】
楽譜を見てみたけれど,インヴェンションを弾くのは難しいという人は「プレ・インヴェンション」という曲集がおすすめです。バッハのメヌエットなど聴いたことがある曲も収録されています。
「プレ」というだけあり,インヴェンションの前に取り組む教材としては大変おすすめです。多くの曲で右手と左手が違う動きをするという点でとても練習になりますし,譜読みも曲によってはそれほど大変ではないと思います。
プレインヴェンションについては過去に記事にしていますので,興味がある人はチェックしていただければと思います。
まとめ
インベンションは正直ピアノの初心者にはレベルが高いと思いますが,弾けるようになると一気にレベルアップできる可能性を秘めている曲集だと思います。まずは曲を聴いてみて気に入った曲からスタートするということも非常に良いと思います。まずは楽譜を手にして,戦えるか確認するということも良いと思います。ピアノが弾ける人は必ず弾いたことがある王道の曲に挑戦してみましょう!
楽譜はヘンレ版以外にもウィーン原典版や全音楽譜出版社によるもの,ブゾーニ版もありますので参考までに楽譜のリンクを貼っておきます。