ゆっくり弾き始めたつもりでも…
ピアノを長く習っているひとであってもいざピアノの前に座って,曲を弾いてみると,いつも同じテンポになってしまうということはありませんか?
たまにはゆっくり弾いてみようと思っていつもよりもゆっくり弾き始めても数小節進んだところでテンポが徐々に速くなりはじめ,曲の最後に到達する頃にはいつもとほぼ同じテンポになってしまった,という経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
なぜどんどん速くなってしまうのか?
次になぜ慣れているテンポに落ち着いてしまうのか考えてみます。
慣れているテンポというのは一人ひとりによって大きく異なります。
自分の慣れているテンポが一般的ではないということは,他の人と一緒に弾いてみればよく分かります。
自分が習っているピアノの先生や友達と連弾をしてみて,
- いつものテンポと違って速くてついていけない
- いつものテンポよりも遅いけど安心して弾ける
といった自分の練習の中では感じることができないテンポに対する感覚をつかむきっかけになります。
慣れているテンポというのは自分の初見演奏でのスピードにも直結しますし,ある一定以上のスピードで処理することができない状態を自ら作り出してしまいます。
さらに,練習しているテンポがいつものテンポに落ち着くということには
- 練習のバリエーションが少ない
- 部分練習が不足している
- 何も考えないで指だけ動かしている
といったことも原因のひとつとなるので,なかなか上達しないスパイラルに陥ってモチベーションがどんどん下がっていってしまう入口に立ってしまっている可能性もあります。
自分の練習を見つめ直す~ゆっくり弾けていないと本当の意味で弾けていない~
昔はこんなことを考えていました。
- 速く弾ければゆっくり弾ける必要はない
- ゆっくり弾く練習は意味はない
もし,当時の自分に一言言えるのであれば,そんな練習方法では一定のレベルよりも上には行けないということを伝えてあげたいと思っています。
ゆっくり練習することに意味があるのか当時の自分は分からず,最終的に曲にふさわしいテンポになれば良いと思って,自分の慣れたテンポで何度も曲の形になるまで練習していました。
速いテンポでの演奏では,次々に音を演奏するので動きに余裕がない場合があります。
一方,ゆっくり弾く場合には速いテンポで演奏する場合と比べて明らかに動きに余裕が出ます。
この余裕がある動きの中に「意味のない動きや不自然な動き」が混ざっていると速いテンポで弾いたときと遅いテンポで弾いたときに技術にギャップが生じます。
そんなことないだろうと思っていても,ゆっくり弾いたときには速く弾いたときよりも手が上がっていたり,指使いの滑らかさがなかったりするなど注意深く見るとたくさんの不自然な動きをしていることに気づきます。
ゆっくりした動きの一つ一つにちゃんとした動きの根拠があれば,それを早回ししていくことでテンポが速くなっても安定して演奏することができるようになります。
また,テンポを徐々に上げていくときに自分が感覚では絶対に選択しないテンポというものが存在します。
上手い人ほどそういったものはなく段階的に速くする技術を持ち合わせていると思いますが,私はこの自分が感覚では絶対に選択しないテンポが自分の持つ技術の境目だと思っています。
このテンポでは自分の演奏における速い曲用の技術と遅い曲用の技術の中間にあたる部分であることが多く,技術が未熟なものとなっていることもあります。
技術のくせを少しずつなくして,自分の身体をしっかりとコントロールし,自分の演奏する音に責任を持てる状態で演奏するのを最低条件として演奏会に臨むと,演奏会で納得できる演奏ができる確率が格段に高くなりますし,何より演奏するときの自信にもつながります。
演奏のきめ細かさを高めるためにはゆっくり弾くことが不可欠!
ここで,例をあげて考えてみましょう。
今,1秒間に1つ演奏の内容に注意できると仮定します。
これは技術的な内容かもしれませんし,音楽的な表現かもしれません。
次に,いつものテンポで演奏すると8小節の曲を8秒で演奏できるとします。
いつものテンポだと曲が弾き終わるまで8個気にすることができます。
もし,テンポを2倍にして8小節の曲を16秒のテンポで弾くようにすると,曲が弾き終わるまでには16個演奏に注意することができるようになるはずです。
しかし,ゆっくり練習することに意味を見いだせていない昔の私のような人は8小節の曲を16秒で弾いているにもかかわらず,考えていることは8個しかないという練習をしてしまいます。
つまり,いつもは1秒に1つの注意をしているのに,ゆっくり弾いて2秒に1つの注意をするという怠慢な練習をしてしまい,退屈な練習としてゆっくり練習することに意味を見いだせないというスパイラルに陥ることが考えられます。
これを逆に利用することができればどうでしょうか。
ゆっくり8小節を16秒で演奏するところからスタートし,16個注意して演奏することができる状態でテンポを上げていき,8小節を8秒で演奏するときであっても16個注意して演奏することができれば,きめ細かい演奏ができるようになります。
今の自分の演奏のクオリティを上げるためには1秒間で注意できる数を増やすということが重要であり,こうしたスキルを獲得することも上達の大切なステップになると思います。
ゆっくり演奏する練習方法についてはこちらでも記事にしていますので参考にしていただければと思います。
まとめ
今回はテンポに注目して記事にしてみました。
気づくといつも同じテンポで弾いてしまうという人は,練習が上手く行っていない可能性もありますし,技術にムラが出ないように注意して練習を進める必要があります。
しかし,それに気づけると自分に足りない技術が分かるだけでなく,上達のきっかけをつかむことができます。
今回の記事をきっかけにテンポのくせを見直し,ゆっくり練習することの大切さを改めて考えるきっかけにしていただだければ嬉しいです。
この記事が皆さんの役に立てば嬉しいです。