「休符=休み」と思っている人もいるかもしれませんが,「休み」も音楽の「間」を表すものであり,リズムを構成する重要な要素です。今回提示した譜例では1~3小節目に休符はありませんでしたが,休符も同様に細かい音符で考える必要があります。
音符と休符の両方を緻密に再現してあげると演奏がもっと豊かになります!
『休符=休み』と教わるところから
ピアノをはじめとした音楽を習っている人や小学校などの音楽の時間では,休符は音を出さなくていいと教わったり,休符は休みであると教わったりした人が多いのではないでしょうか。休符はたしかに音を出さなくていい部分ではありますが,休みと教わってしまうことから,休符を見るとそれ以上何も考えなくなってしまう習慣が身についている人もいるのではないでしょうか。
音符と休符のどちらも曲の大切な要素
楽譜には音の高さや長さが記されている「音符」と音を出さない部分や長さを示す「休符」があります。どちらも曲を記すための大切な要素であり,蔑ろにしてはいけないものだと思います。確かに,「音符」の方が音の高低や音の長さを表すため情報が多いですが,私は表せるもの(役割)が異なることから「音符」と「休符」に差をつけて考えてはいけないものと考えています。
休符を数えてみる
ピアノを弾くと両手で10小節休みということはほとんどないと思いますが,オーケストラに出てくる楽器を弾くと自分の出番まで数小節から数十小節などの休みがあります。ピアノを弾く場合でも,ピアノ四重奏やピアノコンチェルトなどで他の楽器と共演するとき,自分の出番まで休符が書かれていることも多いですが,実際に数えてみると同じ四小節でも結構長く感じたり,思ったよりも短かったりと長さは同じはずなのに体感として印象が異なる場合があります。これは,前からの音楽のスピードも関係しますが,いつも練習で休符を飛ばして弾いていたり,ちゃんと待って弾いていたりというムラのある練習も一つの原因と思います。
ソロで弾く場合はあまりこういったことはありませんが,休符をちゃんと数えてみたことがある人は少ないかもしれません。
休符を数える練習方法【休符の中の音符を埋めてみる】
休符が休みであると刷り込まれている人にとっては、なかなか休符の大切さと言われてもピンとこないかもしれません。実際に休符の部分を一番細かい音符で埋めてみるとどうなるでしょうか。実際に楽譜にしてみるとものすごく大変な楽譜が完成します。簡単な譜例で見てみます。
この楽譜を弾くのはそれほど大変ではないと思いますが,皆さんは楽譜で音を延ばしている部分や休符になる部分で何を考えていますか。私は小さい頃は2分休符を無視して最初の左手の音や2小節目の右手の音を全音符で弾いていたことがあります。休符は音のない部分だけどあっても間違いではないくらいの気持ちでいました。偉大な作曲家によってつくられた曲は休符も含めてよく練られている音楽があるので本来こうした意識は曲を弾く意識の中では適切ではありません。
休符の部分について,音を埋めて以下の楽譜にしてみます。こうすると,全ての拍に音が書かれているため,頭をしっかり回転させて,休符の部分も音として弾くため意識することになると思います。
次はもう少し細かい音符が出てくる譜例で考えてみます。以下の譜例は最初の譜例を変奏したものです。少し難しくなったかもしれませんが,この中では16分音符が最も細かい音符になります。
最も細かい音符で割ってみると以下のようになります。
以上の譜例を見てみると,休符の部分では特に何も考えていなかったり,休符の長さを案外ちゃんと守れていなかったということもあるのではないでしょうか。また,長い音符を弾いた瞬間にその音の存在をないがしろにしてしまい,右手は次の音だけを考えてしまうということはあるのではないでしょうか。弾いてしまった音は変えられませんが,音楽をそれだけ緻密に考えることができると,一瞬一瞬の音楽の流れをさらに大切にすることができます。音楽の緻密な考え方については,こちらの記事も参考にしてください。
今回は全ての音符を埋めましたが,休符の部分だけ埋めることや休符の部分だけでも細かい音符で割って考えるということだけでも,楽譜の捉え方が変わるためとても効果があります。
休符を正しく演奏できると?
休符も含めて楽譜に書いてある一番細かい音符で考えることができるようになると,付点のリズムがはっきりし,休符の後に入る音が新鮮に弾けるようになります。
ソナタやソナチネの緩徐楽章では付点のリズムがたくさん入っている場合が多いです。均等なリズムだけでなく,ゆっくりなテンポの上で細かい音符のリズムを適切に出せると思います。
緻密な演奏を行うためには、休符も音符のある部分もどちらも大切であり、同じくらい神経を注いでいる必要があります。毎回そういった練習をする必要はありませんが、ふと気付いた時などに練習していただければと思います。
間の大切さと間の音楽
ピアノの基本要素にはテンポと音量,音の高低などがありますが,チェンバロのような強弱が付けられない楽器では,間のとりかたが極めて重要でした。ソナタ・ソナチネの緩徐楽章やバッハのテンポのゆっくりした曲を譜読みしてみると,待ちきれなくて次の音次の音にどんどん移ってしまうことがあります。テンポのゆっくりした曲を好きになるためには,ゆったりとした間を待てるかということが一つの要素になります。
また,テンポがゆっくりした曲だけでなく,テンポが速い曲でも,ずっと同じ速度で休符もなく進んでしまうと,聴衆に水泳で無呼吸で泳がせるように余裕を与えない弾き方になってしまうため,適切に呼吸をさせる場所が必要になります。こうした緩急を活かした間の音楽を表現できるようにするための第一歩として休符を含めて音楽の基本である「間」をまず意識することが大切です。
まとめ
今回は休符の大切さに注目して、「休符=休み」からの脱却をテーマに記事にしてみました。色々な曲がありますが、休符も大切な音楽の要素です。
私は聴いている人に心地の良い音楽を目指すために,休みに違和感を感じさせない演奏をするということができるようになりたいと思っています。
ゆきふり