今回はミスタッチがなく,止まらずに曲を弾けるようになるような練習方法を紹介します。試したことがない人はぜひ一度やってみてほしいと思います。
まずは結論から…
ミスタッチがなく,止まらずに曲を弾くためには「どこまでも遅いテンポで練習をする」ことです。
当たり前だろうと思う人もいるかもしれませんが,何度も弾いてきた曲でも構いません。止まらず100%ミスタッチがなく弾けるという曲はどのくらいありますか?
この質問に「1曲もない…」という人はこの練習はとても効果があります。ご安心ください。
なぜ曲を弾くうえでミスタッチをするのか
ミスタッチをする理由を真剣に考えたことはあるでしょうか。真剣に考えたことがある人は,ミスタッチが少ない演奏ができる人だと思います。一方,昔ピアノを習っていた頃の私のようにとりあえず弾けるようになるということを目指している人は曲が弾けるようになってもミスタッチが減らず,毎回どこかで間違えるということがあります。
簡単に言えば,技術力不足の一言になります。具体的には以下の理由があります。
- 手のポジション(指の位置)を覚えていない。
- 次の音への跳躍の場所が分かっていない,無駄がある。
- 指が回らない,指が覚えるまで弾けていない。
こうしたミスタッチを減らす方法として,「どこまでも遅いテンポで練習する」ということがあります。
この「どこまでも遅いテンポで練習する」という「遅いテンポ」とはどのくらい遅いテンポかというと,自分がミスタッチをしないテンポあるいは考える余裕のあるテンポです。ミスタッチをしないテンポで弾くので当然と言えば当然ですが,100%ミスのない演奏が可能です。
ここでのミスタッチは音のミスだけでなく,pなのにfで弾いてしまうような強弱のミスやクレッシェンドをかけるべきなのに音が大きくなっていない,ディミヌエンドをかけるべきなのに音が小さくなっていない,アクセントが書いてあるのにできていないという音楽的なミスも含まれます。
今取り組んでいる曲で遅いテンポでの練習をやっても構いませんが,試しにやってみる場合は,ブルグミュラーやツェルニー100番など比較的簡単な曲集をおすすめします。
実際にやってみると分かること
意外と(というかかなり)難しい
ミスタッチをしないテンポで弾く場合,今まで練習したことがないテンポで弾くことになります。そのため,実際に弾いてみると数小節経つと自然といつも弾いている弾きやすいテンポで弾いてしまっていることが分かります。(最初から遅いテンポで弾き続けられる人は心から尊敬します。)
テンポがキープできない部分は,弾き癖がついていたり,余裕がない状態で弾いているなど演奏の偏りが出てしまっている部分と考えられます。そうした歪みをゆっくりミスタッチを絶対しないテンポで弾いていくと正しく矯正されるため,最終的な演奏の骨格が堂々たるものになります。
また,ゆっくり弾いてもミスタッチをする部分については,技術が足りていないのでもっともっとゆっくり弾く必要があります。その上で,何ができていないか,何ができたら弾けるようになるかを分析します。
なお,ゆっくり練習は苦手なところだけをゆっくり練習するのではなく,弾きなれた部分も含めて全体でゆっくり練習をするという練習が弾き癖の矯正や本番の演奏を盤石にするために極めて効果的です。
特に,Allegroの曲をAndanteよりもずっと遅いテンポでゆっくり弾く場合,普通よりもかなりゆっくりなテンポであるために音楽を見失ったり,テンポの遅さに耐えられなくなる人もいるかと思いますが,基礎力がしっかりある人ほどこうした練習が丁寧にできています。
楽譜を正しく追えるようになる
楽譜を見ながらどこまでも遅いテンポで練習してみると,楽譜の中に書いてある音符の長さや細かい強弱,アーティキュレーションなど普段弾いている上で見落としてしまっている部分があることに気づくかもしれません。私は自分が考えられるテンポで弾くといかに普段の譜読みが雑であったかということに気づかされます。
初見が苦手な人は全ての曲を同じテンポで弾きがちですが,AdagioやAndanteの曲とAllegretやAllegroの曲のテンポの差がかなりあります。最終的なテンポとは異なるものですが,ゆっくり弾いてみると自分が曲にどれだけ真剣に向き合えているかも分かりますし,速く弾いているよりもテンポを守らないといけない,まだ弾けていない場合は丁寧に弾かないといけないと思うために頭をフル回転させて弾く必要があります。かなり疲れる練習ですが,やったことない人はぜひやってみてほしいと思います。
曲を仕上げるスピードが上がる
曲を弾いていく上で,弾けるようになるためには以下の段階が考えられます。
- 楽譜から音を拾う(譜読み)
- つっかえながらも最後まで弾けるようになる
- ミスはあるものの最後まで止まらずに弾けるようになる
- ミスなく,楽譜に書いてある表現や自分の考えを加えて仕上げる
この中で,2と3の練習が練習の上では時間がかかる部分かもしれませんが,毎回100%ミスのない演奏ができれば,この部分が短縮され,曲が仕上がるスピードがどんどん上がります。
また,譜読みに慣れてきて,最初からインテンポに近い練習ができれば,どんどん曲が仕上がるスピードが上がることが予想できます。私はまだそこまでのレベルには全然達していませんが,将来的にはさまざまな曲が初めからある程度のテンポで弾けるようになりたいと考えています。
まとめ
今回はピアノの練習方法として「どこまでも遅いテンポで練習する」ということに注目して紹介しました。ゆっくりとしたテンポで最後まで弾くということは曲によっては非常に難しいかもしれませんが,譜読みのスピードも上がりますし,自分の弾き癖も矯正されるのでとても効果的です。
さらに慣れてきた人は拍を声に出しながら弾いたり,8分音符や16分音符で割って練習するとより効果的です。ピアノを練習して苦しい思いをしている人もいるかもしれませんが,そういった人たちの練習のヒントになればと思います。
やったことがない人はプレインベンションやインベンション・シンフォニアあたりからやってみると良いと思います。この練習は個人的にはバロックや古典派の曲集が向いていると思います。(ただ,慣れていないととても単調な演奏になってしまいますが…。)
ゆきふり